いつき組でご一緒している鈴木牛後さんから、第四句集「鄙の色」が届いた。
北海道の大地で牛飼いを生業とされていた彼の作品は、読者には非日常の世界、その世界観を自然の偉大をまざまざと見せてくれる。
大きな雪積もり小さな人になる
夏休み死がそこいらに落ちてゐる
羆の糞旱の道に発火せむ
吾に呉れよ雪が沈んでゆく力
魅せられるのは、表現の妙、そして詩情。
雪が降る空が剝がれてくる眠る
新緑を歩くわれらに水脈がある
兀とえぞにう引き返すことも旅
ひだるさや鵯草は鄙の色
草いつぽん動けば虫やそれから風
引力のそのさびしさに火を恋ひぬ
従事する者にしか詠めない句に、想像が膨らむ。
永き日の牛の口より零れて歯
火蛾百匹連れて運べる草ロール
振れど振れど牛の尾にまつはる西日
敗戦日軍手を染みて手にオイル
横たはる牛に質量だけや雪
牛を飼う、その実感、やさしい視線。
吼える牛白息の塊を吐く
母牛の喰らふ春闇色の胞衣
風光る仔牛この世に目を瞠り
大声と大き咆哮牧開
永き日や牛は目玉を柵に掻き
牛を売り、北海道から都会への移住を決めるのに、どれだけの思いがあったのだろう。
牛売れば冬が入つてくる扉
牛とたんぽぽ夕暮がもうすぐ届く
独り牛を曳けば素風が牛を押す
雪の夜の牛の眼の底知れず
昨年秋に牛後さんご夫婦が、我が故郷の愛媛南予に来られご一緒させて頂いた。
内子での写真、そして数少ない牛の瀑句。
牛の舌伸びて淡雪拾いけり
うしのしたのびて あわゆきひろいけり